奈良の地酒屋 登酒店
竹鶴酒造
木桶ロマン
石川達也

竹鶴酒造では21BYから木桶仕込みによる「生もと造り」を始めました。
リリースにあたって、石川杜氏から木桶仕込みに関しての想いが書かれた文書を頂いたきました。
色々な想いのもと挑戦されている旨が伝わってくる文章でした。
是非その想いを皆様にも知って頂きたいと思い
ここにそのまま記載させて頂くことにしました。
是非ご一読頂ければと思います。




〜木桶ロマン〜

 竹鶴酒造では、古くから保存してあった大きな木桶(十八石=3200〜3300L:昭和初期に作られたものらしい)3本を桶屋さに再生して頂き、2009(平成21)酒造年度より、木桶仕込みを復活させました。

 木桶は日本の酒ちは切っても切れない道具であり、日本が誇るべき素晴らしい文化でもあります。ところが、昭和以降の”合理化”の流れにより、ホーローやステンレスのタンクに取って代わられ、現代の酒蔵から木桶はほとんど姿を消してしまいました。今では桶屋さんの継承も難しくなってきており、桶文化にとっても危機的状況です。そこで、「では、そういう桶文化を守るために、私たちに何ができるのか?」と考えました。

@自分たちで桶を使い、その魅力に触れること。
Aその桶を使って、人に愛される酒を造ること。
Bそして、自分たちの周りの人に、桶の素晴らしさや、現在の桶を取り巻く状況について伝えること。

 小さな蔵一軒が木桶を使ったくらいで、桶文化を存続させるに及びないことくらいはわかっています。しかし、少しでも桶屋さんに仕事をしていただきたいという想いを抱き、桶の再生を依頼しました。

 したがって私達は、木桶仕込みをするに当たり、もちろん酒の自然性などが増すことは期待しておりましたが、単に結果としての酒が良くなればいいと思っていたわけではありません。木桶を甦らせ、使うこと自体にも意味がある、という意識を持っていたのです。

 木桶で仕込んだらどうなるのか?といったことについては、今でもわからないことのほうが多いのですが、逆に、その「わからない」というところに惹かれます。保存してあった木桶が使えると知ったとき、「わからない」からやらないのではなく、「わからない」からやるべきだと思いました。

 現代の酒造りにおいては、「わからなさ」が評価されることは、まずありません。因果関係の明確な製法が評価される風潮は今なお続いています。また、造られる酒も「わかりやすさ」に価値があるとされ、単純な香味が追求されてきました。しかしそれは、酒から「ロマン」が失われてしまったということではないでしょうか。

 伝統的な道具は、使うことによっ昔の人と話ができる、いわばタイムマシンのようなものです。道具を使いながら、そこに込められた知恵や精神を見ようとし続けていれば、先人と気持ちが通じたと感じられる瞬間があります。そういう経験を積むことによって、酒造りをしていく上での信念が揺るぎのないものになっていきます。

 その昔、酒を仕込むのはすべて木桶でした。ですから、木桶は酒を仕込む道具の原点のはずです。現代に生きる自分たちにその価値が見えにくいとしても、ただ便利なほうへと流れて、伝統の粋とも言える道具を葬り去るのはもったいない。わからないからこそ使ってみて、少しでも昔の人の知恵や精神に触れたい、と思ったのです。

 また、生もと造りも、何年何本仕込もうと、わからないことだらけの製法です。しかし、それだからロマンティックで興味は尽きず、一方、造り手は謙虚にならざるをえません。

 したがって、生もとと木桶という組み合わせは、一面では、どうなるかわからない不確定要素がとても多い造り方だと言えます。しかし、その「どうなるかわからない」というのは、人間が酒造りをコントロールしようとする場合の不安材料にすぎません。見方を変えて、酒が自然からの授かり物としてとらえ、酒造りを自然の力にゆだねられるなら、酒があるべきところにおさまる安心感を覚えられます。しかも、これほど面白く、ロマンを掻き立てられるものはないと思える、杜氏冥利に尽きる造りなのです。

 さて、この度発売する木桶仕込みの生もとの酒が、前年度までのタンク仕込みの生もとの酒と、何がどう違うのかを言葉で説明することは困難です。はっきり木の香りがするわけでもありませんし。ただ、何かが違うということは、飲まれた方にはおわかりいただけると思います。造り手の贔屓目にすぎないかもしれませんが、木桶仕込みの酒には、これまでの生もとの酒以上に多面的、重層的な印象を受けます。そんなとらえどころのない、つまり「風味」とでも表現するしかない味わいを、心と体でお楽しみ頂ければと存じます。その上で皆様が、木桶や桶文化について少しでも関心を持っていただけることを、心から祈っております。


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